大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和48年(ネ)1047号 判決

(争いのない事実)

一 控訴人らは本件特許発明(発明の名称「一眼レフレツクスカメラ用絞り作動装置」、特許出願昭和二十一年十月二十四日(特願昭二一―六二四一)、出願公告昭和二十三年十月二十日(特公昭二三―二三八九)、特許登録昭和二十四年三月十八日、特許番号第一七八、一六七号)の特許権共有者であつたこと及び被控訴人は、昭和三十六年一月末ころから昭和三十八年十月二十日までの間、原判決別紙目録記載の構造の自動絞り装置(以下「被控訴人装置」という。)を取り付けた一眼レフレツクスカメラ及び交換レンズを製造販売したことは、いずれも当事者間に争いがない。

(被控訴人装置は本件特許発明の技術的範囲に属するか)

二 被控訴人装置は、以下に説示するとおり、本件特許発明の技術的範囲に属しない。

(一) 本件特許発明の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の項には、「本文所記の目的を達せんため、本文に詳記し、かつ、図面に示すごとく、絞度調整環に止子を設け、絞羽根開閉板を該止子に衝合すべくし、開閉板にシヤツターの起動杆に関連せる作動環を係合し、常時絞りを全開状態に保たしめ、シヤツターの作動に際しシヤツターが開き始めざる期間中に作動環を押進し、開閉板が止子に衝合するまでこれをともに回動せしめて、予め定めたる絞度に絞ることを特徴とする一眼レフレツクスカメラ用絞り作動装置。」と記載されており、右記載によれば、本件特許発明の構成要件は、

(A) 絞度調整環に止子を設けて、絞羽根開閉板を該止子に衝合するようにし、

(B) 右開閉板にシヤツターの起動杆に関連した作動環を係合させ、

(C) 右絞度調整環、シヤツター、作動環、開閉板、止子は、

(イ) 絞羽根開閉板は、常時絞りを全開状態に保ち、

(ロ) シヤツターを作動させる際は、シヤツターが開き始めない期間中に作動環を押進し、開閉板が止子に衝合するまで、これをともに回動せしめることによつて、

(ハ) 予定絞度に絞羽根を自動的に絞る、

ことにあること及び被控訴人装置の構造は、

(A)´ 絞度調整環(10)に、筒体(11)、カム環(12)を固着して、一体として運動するようにし、鏡胴(C)の内部に軸(14)をもつて、揺動自在に定着した可動止片(13)の揺動軸(15)を前記カム環(12)の面に接触させ、一方、游環(5)に固着された絞羽根(9)の開閉板(8)に設けられた突片(17)の先端は、前記可動止片(13)に衝合させられ、

(B)´ 游環(5)とともに、開閉板(8)に固着され、一体に運動する係止片(突腕)(7)が、シヤツター起動杆(1)に関連させられた作動腕(3)と係合させられ、

(C)´ 右絞度調整環(10)、シヤツター(2)、作動腕(3)、絞羽根開閉板(8)、可動止片(13)の相互関係は、

(イ)´ 常には、作動腕(3)の下端が、スプリング(4)によつて、対物方向に対して反時計方向に引かれているため、これに係合する係止片(突腕)(7)、したがつて、絞羽根開閉板(8)を時計方向に回動せしめる状態を継続するので、絞りは全開状態を保ち(この場合は、突片(17)は可動止片(13)と接触していない。)、

(ロ)´ シヤツター(2)を作動させる際には、シヤツター起動杆(1)の初期移動により、まず、作動腕(3)が、スプリング(4)に抗して、時計方向に押進せしめられる。そのとき、これと係合している突腕(7)、游環(5)、絞羽根開閉板(8)、突片(17)は、スプリング(6)によつて、作動腕(3)の移動とともに回動するが、この回動は、突片(17)が可動止片(13)に衝合することによつて停止する。図面において明らかなように、このとき、作動腕(3)は、右開閉板(8)の回動停止と無関係に、予め規定された行程端まで運動し、しかるのち、シヤツター起動杆(1)が、シヤツター(2)を作動させるように設計されているので、少なくとも作動腕(3)、したがつて、絞羽根開閉板(8)の回動期間中は、シヤツター(2)が作動することはなく、

(ハ)´ 一方、可動止片(13)と突片(17)との衝合点は、絞度調整環(10)に固着され、その回動とともに回動するカム環(12)のカム面の変位を揺動軸(15)を介して受けることによつて決定されるので、結局、絞度調整環(10)の回動によつて、予定絞りを自動的にえられることになることは、いずれも当事者間に争いがない。

(二) 右事実によれば、本件特許発明においては、絞度調整環に止子を設け、この止子が絞羽根開閉板に直接衝合するようにし、また、絞羽根開閉板に、シヤツターの起動杆に関連した作動環を係合させるように構成されているに対し、被控訴人装置においては、絞度調整環(10)にはカム環(12)を固着して、一体として運動するようにし、鏡胴(C)の内部に軸(14)をもつて、揺動自在に枢着した可動止片(13)の揺動軸(15)をカム環(12)の面に接触させ、一方、游環(5)に固着された絞羽根開閉板(8)に設けた突片(17)の先端が可動止片(13)に衝合するようにし、また、開閉板(8)に固着された游環(5)の係止片(7)を、シヤツター起動杆(1)に連結されている作動腕(3)に係合させるように構成されているから、被控訴人装置においては、本件特許発明の止子に相当する部材である可動止片(13)は、本件特許発明の絞度調整環に相当する絞度調整環(10)に設けられておらず、鏡胴の内部に軸をもつて揺動自在に枢着されている点及び、本件特許発明の環状体としての作動環に相当する部材である作動腕(3)は、腕状である点において、本件特許発明と構成上相違し、その他の点では一致するものであり(右二点において相違し、その他の点で一致することについては当事者間に争いがない。)、したがつて、被控訴人装置は、この相違点において、本件特許発明の構成要件を欠くものである。控訴人らは、被控訴人装置における可動止片(13)は、絞羽根開閉板(8)がそれに衝合して、その運動量を制御することを唯一の機能とし、この制御量を決定する原因となるものは絞度調整環(10)の運動のみであり、他に何ものもそれに関与していないのであるから、絞度調整環(10)と別の鏡胴(C)に可動止片(13)を設けた点は、本件特許発明における「絞度調整環に止子を設ける。」という概念に含まれる旨及び、本件特許発明の作動環と被控訴人装置の作動腕について、絞羽根開閉部材をシヤツターの起動杆に関連した作動部材に係合させるものとして差異がない旨主張する。しかし、当事者間に争いのない前掲本件特許発明の明細書の特許請求の範囲の項の記載、成立に争いのない甲第一号証(本件特許発明の明細書)、いずれも当事者間に争いのない前掲被控訴人装置の構造、原判決添付の物件目録及び図面並びに原審証人朝日克行の証言を総合すれば、絞度調整環の回動によつて絞羽根開閉板の運動量を制御するための構成として、本件特許発明は、特許請求の範囲に記載されているような絞度調整環自体に止子を設け、この止子が絞羽根開閉板に直接衝合するという特定の構成をとるに対し、被控訴人装置は、絞度調整環(10)にはカム環(12)を固着して一体として運動するようにし、鏡胴(C)の内部に軸(14)をもつて揺動自在に可動止片(13)を枢着し、この可動止片(13)の揺動軸(15)をカム環(12)の面に接触させるようにし、一方、絞羽根開閉板(8)に突片(17)を設け、この突片(17)の先端が可動止片(13)に衝合するように構成したものであり、また、シヤツター起動杆に関連した作動部材及びこれと絞羽根開閉部材との係合に関する構成としては、本件特許発明は、環状体の作動環を設け、これが絞羽根開閉板に係合しており、シヤツターの作動に際し、シヤツターの起動杆が作動環を押進し、絞羽根開閉板は、これが絞度調整環に設けられた止子に衝合することによつて、停止するという特許請求の範囲記載のような特定の構成をとるに対し、被控訴人装置は、腕状の作動腕(3)を設け、これが絞羽根開閉板(8)に固着された游環(5)の係止片(7)に係合しており、シヤツターの作動に際し、シヤツター起動杆の初期移動により、作動腕(3)は、スプリング(4)に抗して、時計方向に押進せしめられ、そのため、作動腕(3)と係合している係止片(7)、ひいて、游環(5)、絞羽根開閉板(8)に設けられている突片(17)が、スプリング(6)により、回動し、前認定のように、突片(17)の先端が可動止片(13)に衝合することによつて、絞羽根開閉板(8)は停止するようにした構成をとるものであり、しかも、被控訴人装置は、以上のような構成をとることにより、本件特許発明をも含めた従来技術にはない絞度目盛を完全に等間隔にすることを可能ならしめる効果をももたらすものであることが認められ、以上の認定を左右するに足りる証拠はなく、右認定の事実に徴すれば、被控訴人装置における可動止片に関する構成は、明らかに本件特許発明の「絞度調整環に止子を設ける」という技術的概念に含まれるものではなく、また、被控訴人装置の作動腕は、技術的にみて、本件特許発明の作動環と異なるものというべきである。(なお、被控訴人は、本件特許発明の技術的範囲については、先行技術として、原判決判示の米国特許A及びBの技術を斟酌すべきである旨主張するが、本件特許発明の目的、構成及び効果は、いずれも、その明細書自体から十分明確であり、したがつて、その記載に基づいてその技術的範囲を解釈認定することにつき、これを困難ないしは不可能にする何らの事情はないから、その認定に当たり、あえて、米国特許A及びBの技術を斟酌しなければならないとする理由も必要も全く存在しないものというべく、これと異なる考え方に立つ被控訴人の見解は、当裁判所の賛同しえないところである。)

(三) 叙上のとおりであるから、被控訴人装置は、前記相違点において、本件特許発明の必須の構成要件を欠くものというべく、したがつて、これをもつて本件特許発明の技術範囲的に属するものとすることはできない。

(むすび)

三 よつて、控訴人らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものというほかはなく、これと同趣旨に帰する原判決は正当であるから、本件控訴は、これを棄却する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!